	論壇011 2001/09/12 「昔の先進国」日本注記：日刊建設産業新聞『論壇』に掲載(2001/10/16)
	【マレーシアのインフラ整備】この夏マレーシアの首都クアラルンプール(KL)を5年ぶりに再訪した。前回、建設工事真っ只中で錯綜していた現場を見学したクアラルンプール国際空港(KLIA)も開港してすでに三年が経過した。 KLIAは首都クアラルンプールの南50kmの場所に位置し、パーム椰子の大プランテーションを伐開して、敷地面積は100平方キロ、米国デンバー空港に次いで世界第二位の広さを誇る。滑走路は開港当初四千m二本で最終的には四本になる。空港ターミナルは黒川記章氏が設計に携わり、｢森の中の空港、空港の中の森｣をコンセプトに、緑豊かで明るいガラス張りの構造である。我が国トップののコンサルティングエンジニア会社がCMを担当、我が国のトップゼネコン数社が施工の主力となり完成させた。空港からクアラルンプール市新都心(KLCC)まで、東側のKL～セレンバン高速道路、西側の北南セントラルリンク高速道路に囲まれた南北50km、東西15km、約750km2の地域は、マレーシアが国家プロジェクトとしてIT産業育成のために推進するマルチメディア・スーパー･コリドー(MSC)である。政府はMSCに対しては2020年までに総事業費500億RM(約一兆五千億円)以上を投入する予定。海外直接投資総額はすでに28億RM(約840億円)に達している。 R&Dセンターについては、我が国のNTTが99年にオープン、富士通は今年、エリクソンは来年にオープンを予定している。米国のIT大手の進出も決定している。 MSCでは、マレーシアの産業構造を現在の加工組立型産業から高度で洗練された情報通信産業、すなわち、R&D、製品デザイン、マーケティングといった高付加価値プロセス志向を強化させ、IT産業を経済成長の核と位置付けている。
	マルチメディア環境整備の中心がMSCの情報都市サイバージャヤであり、2020年には人口24万、IT関連企業500社程度の進出を予定している。MSCには新行政都市となるプトラジャも建設されており、政府行政部門が順次移転している。マハティール首相は97年1月カリフォルニア大学でMSCに関する講演を行い、その後MSCへの積極的な誘致作戦を展開すると共に、電子署名法、コンピュータ犯罪法、遠距離医療法その他のサイバー法体系を制定し、MSC開発に関する情報と開発権限をマルチメディア開発公社(MDC)に集中させるなどして、その成果が次第に実を結びつつある。 KL市内の高層建築ブームは一段落した感があるが、朝夕の交通混雑は相変わらず激しい。 93年に建設を開始した市内のLRTも第一フェーズのスタールート、第二フェーズのプトラルートが営業している。アジア通貨危機で中断していた市内繁華街を走り抜ける第三フェーズのモノレール建設も再開している。その工事進捗率は50％近く、来年7月に開業の予定である。LRTは英国の技術と資金で建設されたが、モノレールは政府から40年間のコンセッションを取得したマレーシア民間企業が自ら資金を調達し、モノレール車両も自社で技術開発、軌道建設工事をおこなっている。KL郊外の工場でモノレール車両を製造し、10kmのテストコースで連日走行テストを行っている。このプロジェクトを成功させて中国へのシステム輸出を計画している。プロジェクトマネジメントの陣頭指揮に当たっている友人の案内で建設現場を回って気が付いたのだが、KL市内には電柱や電線がない。すべての公益サービス配管配線は地下埋設されているのだ。橋脚基礎掘削で埋設物切断事故を起こしたり、真夜中に繁華街でのコンクリート桁架設など苦労が多いがプロジェクト関係者の技術水準や労働意欲は極めて高い。 LRTやモノレールと連絡するKLセントラル駅～国際空港(KLIA)間の鉄道KLIAエクスプレスの運行開始は来年4月と最近発表された。直行(28分)、MSC地域内各駅停車の鈍行(37分)が15分間隔で運行される予定である。アジア通貨危機を脱して『ビジョン2020』で｢2020年の先進国入り」を目指すマレーシアのITを核とするインフラ建設が着実に進んでいる。
	【アジアの空港整備】マレーシアの隣国タイの首都バンコクでは2004年開港を目指して新国際空港建設が着工、地盤改良工事の真っ最中、シンガポールでは2006年供用を目指して第三ターミナルの建設が進められている。韓国では仁川国際空港が今春開港、4,000m級滑走路二本であるが、さらに二本増設の計画である。アジア各国のインフラ整備競争は熾烈である。マレーシアから帰国直後、成田空港二本目の滑走路として建設中の暫定平行滑走路(2,800m)の供用開始が来年4月、当初計画の2,500mについてはワールドカップには事実上無理との空港公団発表があった。折角の二本目にもジャンボが発着できず、24時間運用もできない我が国基幹空港インフラ整備の貧弱さの現実を前に、もはや日本は｢昔の先進国｣と位置付けられる時がやって来たのではないかと憂慮する。 ■

	論壇011 2001/09/12 「昔の先進国」日本注記：日刊建設産業新聞『論壇』に掲載(2001/10/16)
	【マレーシアのインフラ整備】この夏マレーシアの首都クアラルンプール(KL)を5年ぶりに再訪した。前回、建設工事真っ只中で錯綜していた現場を見学したクアラルンプール国際空港(KLIA)も開港してすでに三年が経過した。 KLIAは首都クアラルンプールの南50kmの場所に位置し、パーム椰子の大プランテーションを伐開して、敷地面積は100平方キロ、米国デンバー空港に次いで世界第二位の広さを誇る。滑走路は開港当初四千m二本で最終的には四本になる。空港ターミナルは黒川記章氏が設計に携わり、｢森の中の空港、空港の中の森｣をコンセプトに、緑豊かで明るいガラス張りの構造である。我が国トップののコンサルティングエンジニア会社がCMを担当、我が国のトップゼネコン数社が施工の主力となり完成させた。空港からクアラルンプール市新都心(KLCC)まで、東側のKL～セレンバン高速道路、西側の北南セントラルリンク高速道路に囲まれた南北50km、東西15km、約750km2の地域は、マレーシアが国家プロジェクトとしてIT産業育成のために推進するマルチメディア・スーパー･コリドー(MSC)である。政府はMSCに対しては2020年までに総事業費500億RM(約一兆五千億円)以上を投入する予定。海外直接投資総額はすでに28億RM(約840億円)に達している。 R&Dセンターについては、我が国のNTTが99年にオープン、富士通は今年、エリクソンは来年にオープンを予定している。米国のIT大手の進出も決定している。 MSCでは、マレーシアの産業構造を現在の加工組立型産業から高度で洗練された情報通信産業、すなわち、R&D、製品デザイン、マーケティングといった高付加価値プロセス志向を強化させ、IT産業を経済成長の核と位置付けている。
	マルチメディア環境整備の中心がMSCの情報都市サイバージャヤであり、2020年には人口24万、IT関連企業500社程度の進出を予定している。MSCには新行政都市となるプトラジャも建設されており、政府行政部門が順次移転している。マハティール首相は97年1月カリフォルニア大学でMSCに関する講演を行い、その後MSCへの積極的な誘致作戦を展開すると共に、電子署名法、コンピュータ犯罪法、遠距離医療法その他のサイバー法体系を制定し、MSC開発に関する情報と開発権限をマルチメディア開発公社(MDC)に集中させるなどして、その成果が次第に実を結びつつある。 KL市内の高層建築ブームは一段落した感があるが、朝夕の交通混雑は相変わらず激しい。 93年に建設を開始した市内のLRTも第一フェーズのスタールート、第二フェーズのプトラルートが営業している。アジア通貨危機で中断していた市内繁華街を走り抜ける第三フェーズのモノレール建設も再開している。その工事進捗率は50％近く、来年7月に開業の予定である。LRTは英国の技術と資金で建設されたが、モノレールは政府から40年間のコンセッションを取得したマレーシア民間企業が自ら資金を調達し、モノレール車両も自社で技術開発、軌道建設工事をおこなっている。KL郊外の工場でモノレール車両を製造し、10kmのテストコースで連日走行テストを行っている。このプロジェクトを成功させて中国へのシステム輸出を計画している。プロジェクトマネジメントの陣頭指揮に当たっている友人の案内で建設現場を回って気が付いたのだが、KL市内には電柱や電線がない。すべての公益サービス配管配線は地下埋設されているのだ。橋脚基礎掘削で埋設物切断事故を起こしたり、真夜中に繁華街でのコンクリート桁架設など苦労が多いがプロジェクト関係者の技術水準や労働意欲は極めて高い。 LRTやモノレールと連絡するKLセントラル駅～国際空港(KLIA)間の鉄道KLIAエクスプレスの運行開始は来年4月と最近発表された。直行(28分)、MSC地域内各駅停車の鈍行(37分)が15分間隔で運行される予定である。アジア通貨危機を脱して『ビジョン2020』で｢2020年の先進国入り」を目指すマレーシアのITを核とするインフラ建設が着実に進んでいる。
	【アジアの空港整備】マレーシアの隣国タイの首都バンコクでは2004年開港を目指して新国際空港建設が着工、地盤改良工事の真っ最中、シンガポールでは2006年供用を目指して第三ターミナルの建設が進められている。韓国では仁川国際空港が今春開港、4,000m級滑走路二本であるが、さらに二本増設の計画である。アジア各国のインフラ整備競争は熾烈である。マレーシアから帰国直後、成田空港二本目の滑走路として建設中の暫定平行滑走路(2,800m)の供用開始が来年4月、当初計画の2,500mについてはワールドカップには事実上無理との空港公団発表があった。折角の二本目にもジャンボが発着できず、24時間運用もできない我が国基幹空港インフラ整備の貧弱さの現実を前に、もはや日本は｢昔の先進国｣と位置付けられる時がやって来たのではないかと憂慮する。 ■