論壇012 2001/06/21 公共工事へのCMの導入
	注記：日刊建設産業新聞『論壇』に掲載(2001/08/06)
	【公共入札改革とCM検討】 90年代はじめの｢日米建設摩擦｣がいつのまにか沈静化した。当時米国側が強く求めていたのは、上流側エンジニアリング･サービス、すなわち、コンストラクションマネジメント(CM)やプロジェクトマネジメント/プログラムマネジメント(PM)などのマネジメントサービスの提供であった。 それから約十年後の昨年一月、米国ロサンゼルスで開かれた日米建設行動計画特別レビューで、我が国公共工事市場におけるCM実現可能性を検討することで日米が合意した。日本側の積極的な提案を米国側が評価したという。 今年4月、｢入札契約適正化法｣が施行された。｢透明性の確保｣｢公正な競争の促進｣｢不正行為の排除｣｢適正な施工の確保｣がその四つの柱である。その結果、入札情報の積極的な開示、上請けや丸投げ摘発などが進んでいる。 当然行われてしかるべきものがようやくなされているに過ぎない。我が国の公共工事発注全体の枠組には本格的な改革がいまだにみられない。 98年2月の中建審建議で多様な入札契約方式(入札時･契約後VE、総合評価方式(技術提案型)、設計･施工一括発注(DB)の活用、ネゴシエーション方式やCMの検討が盛りこまれた。 日米の｢CM実現可能性検討」合意からほぼ一年後の昨年末、旧建設省はCM方式研究会を発足させた。 この年末には報告書を取りまとめる。 それに加えて、この三月、国土交通省は「マネジメント技術活用方式施行評価検討会」を発足させた。公共工事でのCMのあり方についての本格的な検討をはじめた。 中部地方整備局発注の施工マネジメント方式を試行導入した工事のモニタリングと評価を行い、これも年末までに報告書を取りまとめる。 この試行工事は、工事本体部分と専門工事部分が分離発注され、本体部分の受注者(一般競争入札で決定)である元請者が、自社施工分と専門工事部分(公募型指名競争入札)を合わせた工事全体のCMもおこなうのだという。 これはCMではない。英国の指名下請(ノミネートサブコン)方式である。 この方式では、発注者がサブコンを別途入札し元請者に下請契約することを求める。請負者は発注者がノミネートした下請を断り、自ら下請を指定し発注者の承認を受けることもできる。英国やその影響が及ぶ諸国の約款、FIDIC国際約款で一般条項化されている下請選定方式である。
	CM方式におけるコンストラクションマネジャー(CMR)は、請負者側のマネジメントではなく、発注者側のマネジメント、すなわち発注者の代理人としてのマネジメントをおこなう。 CMRは発注者から求められた範囲内の専門的なマネジメントサービスを提供する。発注者の利益指向(工事の計画、設計、施工の各段階におけるコストオープンとコストカット、設計のムダを省き工期を短縮し、VE効果を上げるなど)とCMRの利益指向は一致しなければならない。 【CMと｢小さな政府｣】 米国の公共工事発注者は、70年代、事業量が増大する中で｢スモールガバメント｣の要請を受け、工事の監理･監督を外注しなければ処理できなくなっていた。そのため、発注機関がおこなう業務の一部をCM会社(CMR)に発注するようになった。また、発注者と請負者の間で多発するクレーム紛争を調整するファシリテーターとしての役割を担うことにもなった。 72年にCM標準約款をつくり、CM方式を採用した米国連邦政府一般調達庁(GSA)の当初の目的は工期短縮であった。 従来方式(設計施工分離発注)では、建物の基礎、躯体、外装、内装などすべての設計が完了しないと工事の発注ができない。 CMRに発注すると、設計と工事の工程調整をCMRがおこなう。基礎の設計が終われば基礎工事を、躯体の設計が終われば躯体工事を、それぞれ専門工事業者に発注する。従来方式はリレーレースで走者がバトンタッチする断続的プロセスである。CM方式は、段階施工、並行施工ができる連続プロセスである。発注者と専門工事業者が直接契約し、CMRはマネジメントを担当する。CMRに対する報酬は通常、工事費用に一定比率をかけた金額とする。 これがエージェンシーCMである。CMRがプロジェクトの全工程において広範な役割を担って、発注者に最高限度保証額(GMP)を約束するCMアットリスク方式も広く採用されて現在に至っている。 93年12月の中建審建議以来、入札制度改革が提案されてきた。しかし、設計施工分離発注、予定価格と総価(固定)価格、最低価格自動落札という基本的枠組には変革がない。 英米で多様な入札方式が導入されてきた背景には｢小さな政府｣がある。行政官庁が自前でエンジニアリング・サービスをおこなう時代は終わった。インハウスエンジニアの業務を｢民営化し、エージェンシー化し、アウトソーシングする｣という行政改革が国際競争力を高める。CMを含めた多様な入札方式の導入についてはそうゆう視点から検討されるべきである。 ■