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| 一般市民の関心を集めた「自治体の財政問題」の広がり 近年、地域住民が自分のまちの財政状況について学ぶ動きが全国的に広がっています。財政状況などを分析した結果などについて、「財政白書」などとして、一般市民が自ら自主出版するなど市民の手による「自治体の財政白書」作成の動きが広がっています。 『新潟日報』（2010年8月30日朝刊9面）によれば、一般の市民や学生等が主体となって作成した住民手作りの「自治体の財政白書（財政分析）」は、東京都町田市、長野県松本市、千葉県鎌ヶ谷市など、全国では29自治体で39冊が発刊され、さらに広がる傾向にあると報道されています。 近年、一般市民が自治体の行財政運営に対し強い関心を持ち、自発的に財政分析等を行うようになった要因やその背景は、次の諸点に要約されます。 第一に、筆者が2002年11月共同通信社池谷忍氏と共著として上梓した『自治体財政を分析・再建する―予算・収支の読み方から、行政評価・バランスシート・財政健全化計画の作成法まで―』（大村書店）と題する著書がその発端となっています。 市町村自治体の財政について、地方財政に関する用語の説明等や自治体財政の分析方法などについて、具体的な財政指標や数値を取り上げて詳解したこと、また当時より課題とされていた「事業評価や行政評価」に関する考え方や捉え方、さらに企業会計的視点からバランスシート（Ｂ／Ｓ）の作成による自治体財政分析、加えて自治体の財政健全化計画の作成のポイントに至るまで、これまでの地方財政のテキスト、教科書とは異なる視点より、自治体の財政分析の手法や方法について、分かり易く具体的な事例をあげて詳解した著作が刊行されたことに端を発しているといっても過言ではありません。 同書執筆の経緯については、大学及び大学院、また市町村アカデミーや自治体の職員研修、市民大学講座等において、受講者に常々話してきたことです。当時旧自治省においては、第３セクターに関する指針づくりを進めるために研究会や調査委員会等が設置され、種々の観点より議論されていました。筆者もその一員として参画、関与していました。 共著者の池谷氏は、当初は、その指針の内容や第３セクターに関する問題や課題などについて、事例等を通じて筆者の意見や見解などについて取材のため、前職の新潟産業大学の筆者の研究室に度々電話を連絡されてきました。多くの有識者に、第３セクターの問題や課題などについて電話取材等をしてきたが、その中で、筆者だけが自治体の財政制度や補助制度などを踏まえて、「公共が施設整備し、民間が運営管理するという『公設民営型』の第３セクター方式」があること、このような方式により設立された第３セクターは、経営赤字となったとしても比較的小さな赤字で、経営危機になり難い面があるものの、自治体財政の観点から問題は極めて大きな問題が内在していることなどについて解り易く説明してくれた、と。 一方、民間主導型で設立されたリゾート開発や駅前再開発事業などの典型的な第３セクター方式については、投資規模が大きいこと、計画時と完成時の齟齬が大きいことなどの点から、経営赤字に陥りやすく事業が失敗する可能性が高いなどについて、解り易く詳解してくれたのは筆者だけである、と。 地方財政に造詣が深いと推察するので、自分と一緒に市民向けに、解り易い自治体財政の解説書を執筆しないか、数年後には団塊の世代が定年退職をするが全共闘世代の彼らが地域社会に戻った時に自治体の現況に目を向け関心を持つはずであるが、自治体の行財政運営に関して解り易いテキストとなる解説書がない、一般市民が関心を持つように解り易い解説書を自分も執筆したい、と相談されたのが、本書『自治体財政を分析・再建する』を執筆した経緯、動機でありました。 当時池谷氏は、旧自治省の内政記者クラブの敏腕記者であり、筆者のように研究所や大学で研究を行ってきた者にはない、マスコミ人の感性や時代の潮流を見る見識に、筆者は正直驚かされたことを昨日であったように鮮明に覚えています。同書は、自治体職員や議会議員のみならず市民や学生など、一般市民等が自治体財政について強く関心を示したもので、1年経たずに増刷されました。 まえがきには、「市町村倒産はあり得ないことではない」との警告文ではじまります。 当時、このまえがきは、大仰で、自治体の財政破綻は現実味がないと大多数の人は考えたわけでありますが、その後、2006年6月20日北海道夕張市の財政破綻が明らかになった時には多くの人が衝撃を受けたことは周知のとおりです。 その後、本書を読んだ学陽書房の若い優秀な編集者から依頼され、2004年には『基礎からわかる 自治体の財政分析』を、2007年には『基礎からわかる 自治体の財政再建』を、2008年には『基礎からわかる 自治体の財政分析（改訂版)』（いずれも学陽書房）と自治体財政の分析手法の方法やあり方について詳解した解説書を上梓してきました。 このような経過の中で、ＮＨＫ広島局から『ふるさと発スペシャル まちが“倒産”しないために―検証・自治体財政問題―（73分）』（2003年10月25日）と題した特別番組が放送されました。放送された内容は、市町村合併と財政問題、政令指定都市広島市が財政再建団体へ転落するという衝撃的な財政破綻非常事態宣言をしたことに端を発したもので、同局スタッフの問題意識がその背景にあったわけです。番組制作の最中、筆者に対して、筆者の前掲書『自治体財政を分析・再建する』を読んだという同局の若い担当ディレクターから、番組の内容について、相談と協力の要請、また番組に出演して解説してもらいたいとの依頼がありました。 同番組では、種々の観点より自治体の財政問題が詳解され、当時、大きな反響を呼びました。自治体の財政危機や財政破綻の懸念がその背景にあり、自治体財政の現状と課題を掘り下げるという背景から、このような内容の番組が制作されたわけです。 その後、NHK全国放送の「クローズアップ現代」でも自治体の財政問題を取り上げたいと、同番組の担当ディレクターが筆者の自宅までアドバイスを求めてきましたので、長時間、自治体財政問題について種々の観点より解説、詳解してあげました。筆者のアドバイス等を踏まえて、同番組で放送されるなど、多くのマスコミ報道により、自治体の財政問題が市民の関心を集めたことが第二の要因としてあげられます。 このように、財政危機や財政破綻などに関する一般市民などの関心が高まってきた中で、夕張市の財政破綻が、2006年6月20日北海道夕張市の財政破綻が現実となったわけです。夕張市の財政破綻、夕張市が倒産と題して、当時、マスコミで大きな話題を呼んだことは皆さんの記憶にも残っていることでしょう。一般市民にとっても衝撃的であったわけです。 「市が倒産する」、それはどういうことなのか、また今後市民生活はどうなるのかと。夕張市の財政破綻の当時は、破綻要因やその影響などについて、当時、筆者にも多くのマスコミから取材や問い合わせ等が来ました。NHKラジオなどでも、分かり易く解説してほしいと要請がありました。財政再建策の一つとして、水道料金など生活に密着した利用料金が大幅に引き上げられる一方、市民サービスは低下するなど市民生活に大きな打撃を及ぼすことが明らかになったからであります。自治体の財政破綻が現実に起きたことにより、自治体の財政問題に市民の強い関心が一層高まったことが第三の要因であるといえます。 また、筆者の著作である『自治体財政を分析・再建する』や『基礎からわかる 自治体の財政分析』などを「“タネ本”とした類書が、近年複数冊出版されました。これによって、さらに一般市民や議会議員などが自治体の財政問題を身近に感ずるようになったと同時に、関心を持つ読者層をさらに拡大することになったことが第四の要因にあげられます。 加えて、皆さんご存じのように、自治体財政健全化法と呼ばれる「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」（2007年6月22日法律第94号）が成立し、各自治体では、財政の判定指標である4つの基準指標の数値を公表しなければならなくなったことによって、一般市民等の関心が一気に高まったことが第五の要因であります。 また近年では、総務省のホームページに、決算統計等、基礎的数値の「地方財政状況調査関係資料」が統一的に掲載され、インターネットで全国の自治体の財政関係統計資料の入手が容易になりました。これが第六の要因としてあげられます。 このような中で、最近の4−5年の間に、市民や学生等のグループが自分達の手で自治体の財政の現状分析を行い、その結果をまとめて冊子として発行した「自治体の財政白書」等がマスコミ等で度々取り上げられることにより、さらに一般市民の関心が高まったといえます。各地で市民の手による類似の「財政白書」が作成されるようになったことがマスコミ報道されたことなどが第七の要因といえます。 筆者は前職の新潟産業大学で、学生とともに著作発刊した『地域社会経済分析の実際―新潟県柏崎市の事例研究―』（地域計画研究所、平成9年7月）は、当時のゼミ学生とともに地元新潟県柏崎市を調査して体系的にまとめたもので、地元「新潟日報」にも取り上げられ高く評価されました。Ｂ５版231頁の労作です。 その内容は、1章｢柏崎市の地域概況｣、2章「柏崎市の農業の現状と課題」、第3章「柏崎市の工業の現状と課題」、第4章「柏崎市の商業・流通業の現状と課題」、第5章「柏崎市の観光レクリェーションの現状と課題」、第6章「柏崎市の社会福祉の現状と課題」、第7章「柏崎市の公共施設整備の現状と課題」、第8章「柏崎市財政の現状と課題」、第9章「柏崎市のまちづくりに関するアンケート調査の結果・分析」の各章から構成されています。本書の内容については、「市町村の基本構想、市町村の総合計画」の策定に際して検討すべき内容であり、必要とされる調査、分析であり、現在に至るも極めて高い評価を受けています。 また、筆者が経験した中にも、市民や市民グループ等が財政分析に対して高い意識や関心を持つことになった例として、次のようなものがあります。拙著『自治体財政を分析・再建する』を読んだ読者から、市民に対して地方財政の分析方法等について講義してもらえるかと、新潟県見附市の「見附市まちづくり市民ネットワーク」からの講演依頼（2004年4月）の相談でした。前掲書『自治体財政を分析・再建する』を読んだ読者の市民会議の代表者等から、見附市民に対して地方財政を解りやすく解説して欲しいとの講演依頼でした。 同ネットワークのグループが合併相手の長岡市の財政状況を分析した結果、長岡市の財政状況は厳しいと判断して、長岡市には合併しないで独自路線を進むという選択肢を選んだものの、見附市の財政は本当に大丈夫なのか、逆に心配になってきた、地方財政の分析方法などについて、一般市民に解りやすく解説してほしいとの依頼でした。 また、前掲の放送番組の「ふるさと発スペシャル:まちが“破産”しないために」で紹介された広島県大竹市の市民グループにおいては、自発的に「行財政システム改善推進委員会」を結成して、市の財政分析を行うと同時に、当時、百億円を投じて工事が行われていた分譲住宅開発計画の進行を中止するように市当局に提案したこと、またその提案を受けた市長や議会では、最終的に、この市民グループの提案を受け入れて事業中止に至ったことが紹介されています。 このように、市民グループが自発的な委員会や制作委員会等を結成し財政分析等の活動を行ってきたことに対して、仄聞するところによれば、社会人を主体とした某大学大学院の特別講義における意見交換においては、大学院の在籍受講者からは「市民の物好きだ」と否定的な意見、見解がだされたようですが、筆者は、学生や市民などが、自らのまちの財政分析等を実施することより、まちの将来について議論、検討することについては高く評価しています。 筆者は、前職の新潟産業大学において、「地方財政論」の講義に一般市民が聴講参加して所定の講義時間を受講した際に、「科目履修者」として、数人に修了書を授与したことがあります。 また、酒田市が主催した「市民大学講座」（2007年度）では、「地方財政入門」の講義を行う中で、酒田市の財政の現状や財政分析を解説、詳解した。 さらに本学の大学院の「自治体実務経営講座」公開講座（2007年度）の講義においては、本学に研修教育派遣されてきた当時の山形県職員、鶴岡市、酒田市等の社会人大学院生のほか、酒田市や鶴岡市の市議会議員、銀行員や企業人、一般社会人の受講生に対して、講義出席と課題レポートの提出者で希望者に対しては、科目履修として所定の2単位を認定しました。 一般市民が自分の住むまちの財政状況に関心を持ち、財政分析や財政診断をまとめ「財政白書」等として作成して公表することについては、極めて意義深く有益であると筆者は考えています。誰でも理解しやすいように、難解な地方財政の仕組みや財政運営の問題や課題を検討、議論できるような人財の育成が求められています。 このような社会経済状況を鑑みて、本研究会が設立されたわけです。 （→前ページに戻る） |
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